小路の家

建物を通り抜ける小路
 周辺にはかつての田畑の名残りなのか、あぜ道のような小さな路が点在しており、敷地は西側で約8mの接道、東側で約2mの接道という特殊な旗竿形状をしています。
 地盤面は西側道路から約80cm高くなっており、普通に計画すると敷地が西側と東側に分断されてしまうので、敷地を横断し2つの道をつなげる「小路(こみち)」を設定することにしました。
 建蔽率40%、容積率80%、一種高度地区という厳しい条件の中で、駐車スペースとして車庫1台+臨時1台を確保すること、必要な床面積を確保するために容積率に算入されない地下室とロフトを設けることが要求されました。
 地階には道路との高低差80cmを利用して半地下の車庫と倉庫を、1階には居間と台所、畳室、トイレを設け、その居間と畳室を貫くかたちで西から東へ土間状の小路が横断しています。80cmの高低差はこの土間部分の階段やスロープで解消しています。2階には家族のための共用室、洗面室、浴室、寝室を配し、その上部には高窓のある吹き抜けを介してロフトを設けています。小路上部の2階床鉄板には連続した孔を設けていますが、この孔は1階小路の採光を確保するためだけでなく、この風の通り道になることも意図しています。
 1階の天井は6mmの鋼板でそれがそのまま2階の床に、2階の天井も6mmの鋼板でそれがそのままロフトの床になります。平面方向だけでなく断面方向にも薄くつながる独特の距離感が得られたと考えています。

鉄板構造による一体的な空間
  小さな家なので、細々と仕切ることはせずに緩やかにつなげること、地下+1階+2階+ロフトという4層の高さを法的な斜線制限の中におさめることなどを考慮し、厚さ6mmの鋼板を折り曲げた面状の構造体で壁と床を構成することにしました。
 また、上昇気流を誘発するよう最上部の吹き抜けはあえて他の部分よりやや暑くなるよう計画しています。これにより1階北側の地窓から取り入れられた建物の陰で冷やされた空気が上昇し、吹き抜けの高窓から外部へ排出され、夏期の自然通風が促されます。

畳スペース
 リビングから小路を挟んで畳スペースを設けました。通常はリビングのひとつのコーナーとして一体的に利用しますが、引戸で間仕切ることにより個室としても利用することができます。
 隣地側には既存のブロック塀がありましたが、新たに目隠し板を設け、地窓の先まで同じ仕上げにすることによって室内の奥行を増しています。
 リビングには床暖房を敷設してありますが、畳下にも同様に床暖房を敷設しました。

キッチン
 リビングに連続する対面キッチンにはダッチオーブンが使える3口のガスコンロ、シンク、食洗器を備えます。
 リビングとの一部と捉え、あえて手元を隠すような立上げは設けずに家具のように一体的につくりました。
 キッチンの背面にはバックカウンターを設けました。下部はひきだし、炊飯器置場、窓とカウンターを挟んで上部には吊戸を設け造り付けの収納を充実させました。仕上げはウォルナット材でまとめています。

一体的な水廻り
 2階の水廻りは家族のためのプライベート空間なので、洗面、トイレ、浴室を一体的にまとめました。
 洗面台は下部を開放しています。1階トイレ同様に前面鏡の背面には収納を設けました。

小路の家

2つの道路に接する敷地.敷地を横断する小路(通り抜け土間)を設けた住宅.構造はこの家のために考えた折り曲げ鉄板構造を採用しました.

建 設 地:東京都世田谷区
工事種別:新築
規模構造:地下1階地上2階建 / 鉄骨造(折曲鋼板工法)+RC造
敷地面積: 110.68㎡(33坪)
建築面積: 44.15㎡(13坪)
建 蔽 率: 39.88%(許容 40%)
延床面積:113.45㎡(34坪)
容 積 率: 78.60%(許容80%)
用途地域:第一種低層住居専用地域 / 準防火地域 / 第一種高度地区
主要用途:専用住宅(夫婦+1人)
設計期間:2006年4月~2008年9月
工事期間:2009年4月~2009年12月
設 計 :森俊之+深澤明
構 造 :中田琢史・斉藤美幸
環境計画:廣谷純子(みっつデザイン)
施 工 :河合建築

『小路の家』こみちのいえ